一生懸命働いて、身体も心もヘトヘトになった週末。気晴らしに友達や恋人、家族と楽しむ温泉旅行は最高のリフレッシュタイムです。温泉に浸かったあとは、温泉地の名物料理に舌鼓を打ち、みんなでワイワイ飲むお酒は格別。
週末に英気を養い、来週からまた仕事がんばろ!と思えますよね。休みが取れなければ、近所のスーパー銭湯でもいいかもしれません。
そんな現代人のメジャーリフレッシュスポットの「温泉」ですが、古くは観光だけではなく、病気やケガの療養や、農作業の合間の健康維持のために利用されてきた歴史があります。
いわゆる「湯治」という、日本の伝統的な温泉療法です。
じつは私自身、数年前に交通事故の後遺症に悩み、この「湯治」を体験したことがありました。
目次
車でヒグマに衝突し「頚椎骨折」
その体験は、私が大学生だった2008年にさかのぼります。当時は、北海道東部に位置する網走市で学生生活を送っていました。
気温は日中でも一桁台と、本州の真冬並の気候である11月。お世話になっている地元の農家にて、ナガイモ収穫のアルバイトを終え、冷え切った疲れた身体を温めたいと温泉へ向かいました。この日は数週間続いた収穫も一区切り。せっかくなので少し遠出を、と思い、網走から約2時間の距離にある世界遺産「知床」の温泉へ向かう道中、事故は起きました。
まっすぐな国道の真ん中に現れた、体重210キロの「ヒグマ」に車ごと突っ込み、映画のワンシーンのように大ジャンプ。大玉転がしのごとく2回転半したのち、道沿いの森に墜落しました。

世界遺産「知床」の温泉へ向かう道中、体重210キロの「ヒグマ」と衝突

2度強烈に頭部を強打し、フロントガラスも大破。診断は「第6頚椎骨折」と、右手に麻痺が残りました
ちょうどバウンドのタイミングが自分の頭だったため、2度強烈に頭部を強打し「第6頚椎骨折」。神経を傷つけた影響で、右手がまったく動かなくなりました。もちろん即入院。ちなみに救急車で運ばれたのは、この時が人生初体験でした。

指先はしびれ、ペンも持てないほどに
その後、1ヶ月の入院生活とリハビリで、右手はなんとか動くようになりました。しかし、指先のしびれと、ペンも持てないほど力が入らない後遺症は残り、医者からはこれ以上回復は難しいとの診断。右利きの私でしたが、字を書くことや食事は、左手の方がまともに使えるレベルでした。
骨折した第6頚椎は、全治3ヶ月の診断で幸い手術の必要もなく、コルセットの着用のみで無事完治しました。
北海道の山奥で「湯治」を敢行
しかし、後遺症の治療はどうしても諦めきれませんでした。そこで、元々温泉好きである私は、以前から興味があった「湯治」を、身をもって体験することに。
何ヶ所にも電話をかけ、症状の相談を行い、最終的に選んだ場所は、北海道南部の港町・長万部町の山奥にぽつんと佇む一軒宿「二股らぢうむ温泉」。
明治時代から湯治場として栄え、戦前は帝国陸軍の保養施設としても使われていたという、北海道随一の効能と評判の温泉宿です。今でも病気やケガ等、全国から療養に訪れる湯治客が後を絶たない名湯。携帯電話は当然のように「圏外」でした。

北海道随一の効能と評判の「二股らぢうむ温泉」。戦前、帝国陸軍の保養施設として利用されていた歴史ある湯治場
北海道内には歴史ある湯治宿が数多く存在していますが、「二股らぢうむ温泉」を選んだ決め手は、「ラジウム」という放射能の効能に賭けてみたかったから。
怖いイメージがある放射能ですが、ごく微量であれば免疫細胞の活性化につながり、自己治癒力や健康の増進をサポートしてくれるのです。これを「ホルミシス効果」と言い、ほかのどの泉質よりも効能があると話す専門家もいるほどです。
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湯治期間は“ふたまわり”の2週間
私の湯治期間は2週間。湯治は、通常1週間を「ひとまわり」とするため、「ふたまわり」で後遺症を癒す計画です。食事は五穀米やそうめんを中心とした、お腹に負担の少なく栄養価の高い健康的なメニュー。
テレビはほとんど見ず、携帯電話も使えない環境。早朝、午前中、昼食後、夕方、夕食後と、1日に合計8時間温泉に入るという、ある意味贅沢すぎる湯治生活を敢行しました。
ある日の「湯治」タイムスケジュール
・5時00分:起床
・5時30分:1回目の入浴(1時間30分)
→たっぷり水分を補給し、早朝風呂へ
・8時00分:朝食
→五穀米のおかゆと山菜中心のメニューで内側からもケア
・9時00分:部屋でゆったり
→読書をして過ごす
・10時00分:2回目の入浴(1時間30分)
→内湯を中心にまったり入浴。他の湯治客との雑談も
・12時00分:昼食
→そうめんや五穀米のおにぎりにお漬物といったお腹にやさしいメニュー
・13時00分:3回目の入浴(2時間)
→露天風呂を中心に、湯治客や日帰りのお客さんと談笑
・15時00分:部屋で昼寝
→意外に疲れる入浴。昼寝も「湯治」のひとつです
・17時00分:4回目の入浴(1時間)
→温水プールで歩行浴等の運動をしながら入浴
・19時00分:夕食
→五穀米に山菜と煮魚、焼き魚等の健康和食で栄養補給
・20時00分:5回目の入浴(2時間)
→内湯、露天風呂を行き来し、こころ穏やかに入浴
・22時00分:就寝
→いくら温泉に入っても睡眠がないと意味がありません
ちなみに「二股らぢうむ温泉」の大浴場は混浴で、それぞれ温度が異なる4つの浴槽からなる内湯、大小4つの湯船の露天風呂、歩行浴ができ10メートルほどの広さを誇る温水プールと、種類も豊富。その他、男女別の内湯も完備と、とても充実しています。
「二股らぢうむ温泉」の泉質
温泉の泉質は、「ナトリウム・カルシウム-塩化物泉」。もちろん、加水・加温・循環・消毒なしの「完全かけ流し」です。
新鮮な鉄の香りが心地よく、舐めるとほどよくしょっぱい、茶褐色の「にごり湯」です。肌触りはキシキシとしていて、成分の濃さを実感します。
湯治中は、カルシウム分が肌と髪の毛に付着し、石灰を塗ったように白くゴワゴワするほど濃厚でした。カルシウム分には、鎮静作用があり、肌の傷への効果も抜群。このおかげで事故による肌の裂傷もキレイに治っていました。
この傷への効能も、私が「二股らじうむ温泉」を選んだもうひとつの理由。右手の後遺症と、肌の裂傷を同時に治癒させることができました。
塩化物泉の効果・効能
泉質名 | 塩化物泉(掲示用泉質) |
---|---|
浴用適応症 | きりきず、末梢循環障害、冷え性、うつ状態、皮膚乾燥症 |
飲用適応症 | 萎縮性胃炎、便秘 |
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結果は完治!温泉のチカラを実感

2週間の湯治が終了し、右手は元通り動き、力も入るようになり、しびれも解消。なんと後遺症は「完治」しました。この結果には、私自身も驚愕。温泉のチカラを、身をもって実感した瞬間でした。
病院の治療は、病気やケガの箇所・症状に合わせて治療する西洋医学の要素が主流。
それとは異なり、温泉のチカラによって、身体本来の持つ自己治癒力を高め、病気やケガに効くという「湯治」には、漢方等のように東洋医学のエッセンスを感じます。科学的根拠がすべての西洋医学とは一線を画す、日本の伝統医療の奥深さを感じる結果でした。
お湯は情緒あふれる「にごり湯」と山奥の絶景

そんな効能豊かな「二股らぢうむ温泉」ですが、湯治だけでなく、北海道随一の「秘湯」として、観光客にも人気です。
宿の施設以外、人工的なものの一切ない山奥の景色は、北海道の大自然を間近に感じられるダイナミックな空間。それを情緒あふれる「にごり湯」とともに堪能できるのですから、人気が出ないわけがありません。
温泉でのふれあいも湯治の魅力

単身で乗り込んだ湯治の期間。不安も多くありましたが、結果的には非常に楽しく過ごすことができました。
自分同様の湯治客も多く、毎日顔を合わせるたびに、会話も弾み、笑い合いながらの入浴は幸せな時間でした。
入浴での物理的な裸は、心のよろいも裸にしてくれ、年の差や身分は関係なし。
仲良くなった湯治客からは、長万部名産のとれたての毛ガニをごちそうになったり、地酒を頂いたりと、そんな交流も楽しく、全体を通して「人生の糧」となる貴重な体験でした。
「二股らぢうむ温泉」の施設情報
泉質ナトリウム・カルシウム-塩化物泉(等張性 中性 高温泉)泉温43.2℃pH7.1湧出状況自然湧出湧出量−加水なし加温なし消毒なしかけ流し完全かけ流し
施設名 | 二股らぢうむ温泉 |
---|---|
住所 | 北海道山越郡長万部町字大峯32番地 |
電話番号 | 0137-72-4383 |
URL | http://www.futamata-onsen.com |
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