古くて少し寂れているけれど、そこにしか出せない、絶妙な風情が魅力の「ひなびた温泉」。
昭和のまま時が止まったかのような空間は、数十年もの長い年月が蓄積され、新しいものや豪華に作り込んだものには、決して出せない独特の味があります。
その魅力は、「廃墟」に感じる郷愁にも似たようなもの。そんな「ひなびた温泉」を愛する人って、意外と多いのではないでしょうか。
今回ご紹介するのは、「ひなびた温泉」の代表格ともいえる栃木県「老松温泉 喜楽旅館」。
ひなびすぎて一見廃墟にしか見えない、究極の「ひなびた温泉」です。
※老松温泉喜楽旅館は2019年12月に閉館しました。
目次
那須湯本温泉の外れにある「老松温泉 喜楽旅館」

観光地感ゼロ
栃木県の名湯「那須湯本温泉」の外れに佇む、「老松温泉 喜楽旅館」。
人気観光地である那須湯本温泉のエリアですが、ここにはまったく「観光地感」がありません。
湯本の大通りから1本それた住宅街の道のさらに奥。車が通れない細い砂利道の行き着くと、その手前の広いスペースが旅館の駐車場です。

謎の人形の首が転がる、ホラー映画さながらの道中
駐車場から「喜楽旅館」までは徒歩で向かいますが、人気のない鬱蒼とした砂利道は、何年も放置されているであろう車や、謎の人形の首が転がる、ホラー映画のような不気味なロケーションです。
ひなびを超えた「廃墟」な温泉

は、廃墟……?!
駐車場から歩くこと約3分。そこには、ボロボロに崩れた廃墟が……。
跡形もなく崩壊した外観は、廃墟に感じる「郷愁」よりも、「悲哀」を感じる切なさがあります。
……と、じつはこの建物が、今回の目的地「老松温泉 喜楽旅館」。
「ひなび」を軽く超越した外観は、廃墟マニアもびっくりの光景です。

栃木県・那須湯元の珍湯「老松温泉 喜楽旅館」。きちんと営業しています
ご安心ください。完全に崩壊した建物は旅館の一部分。残り部分は健在で、ちゃんと温泉として営業しています。ただ、その他の部分もかなりの「ひなび」具合です。
ゾクゾク! 肝試し気分があじわえる、薄暗い館内

「肝試し」と呼ぶにふさわしい、薄暗く湿気た空間
受付は、廃墟な建物の道を挟んで向かいの建物の中。穏やかな雰囲気のご主人に入浴料を支払い、温泉の説明を受けます。
やさしいご主人との話にほっこりしたのもつかのま。館内に入ると、外観同様にボロボロ。
しかも薄暗く湿気た空間は、温泉に来たというより、「肝試し」という言葉が似合います。

ズバリ、こわい!
一部壁がはがれていたり床が抜けていたりと、そこは恐怖すら感じる雰囲気。
温泉へのワクワク感よりも、にじみ出る不気味さからかゾクゾク感が上回る、ある意味貴重な空間です。
安堵感すら感じる「ひなびた」浴室

温泉はしっかり手入れされ、安堵感を感じるほど清潔
ボロボロの館内を慎重に歩いた先。浴室は建物の地下部分にあります。
浴室は男女別の内湯のみ。年季の入った木の湯小屋は、絶妙に「ひなび」ています。
そこはまるで、昔ながらの「湯治場」のような風情。
「以前はここも湯治のお客さんでにぎわったのだろうな」……そんな光景を思い浮かべながら、時間を超えた空想にふけると気分はほっこり。
大きな窓のおかげで明るく、不気味な館内とは対照的で、安堵感すら感じる「癒し」の空間です。
また、古いながらもしっかりと手入れされ、清潔に保たれているのも好印象でした。
お湯は乳白色の「硫黄泉」

入りごたえのある、濃厚な硫黄泉
そんな浴室には湯船が2つありますが、ひとつはお湯が抜かれています。
もうひとつの湯船には乳白色のお湯が注がれ、アロマテラピーのようにさやわかな「硫黄」の香りが漂います。
その香りに誘われお湯に身体を沈めると、水道水とはあきらかに異なるまろやかな肌触り。湯温はぬるめのため、何時間でも入っていられそうな長湯向きです。
つかっていると、ジワジワ成分が肌に浸透してくるような入りごたえのある感覚。やさしいながらも濃厚さを感じる、効能がありそうなお湯です。

飲泉も可能。ご主人いわく、「二日酔い」に効能あり
那須湯本といえば「酸性」の刺激的な硫黄泉が主流ですが、ここはそれとは違う自家源泉。同じ硫黄泉ではありますが、刺激の少ない「弱アルカリ性」なのだそうです。
飲泉用のコップがあるので、飲んでみると甘味と苦味を硫黄の風味が包み込む、いかにも効きそうな味。ご主人いわく「二日酔い」にはとても効能があるお湯なんだとか。
ちなみに源泉の温度は30度ほどと低温のため、加温こそしていますが、浴槽はそのまま贅沢に「源泉かけ流し」。
湯口は加温源泉、非加温源泉の2つが有り、それぞれセルフで湯温調整することができます。
今後もずっと残っていてほしい温泉と空間

ご主人の体力低下もあり、建物の手入れが満足にできない現状
「ひなび」過ぎて半分廃墟と化した「老松温泉 喜楽旅館」。お湯は那須湯本では貴重な「弱アルカリ性」の「硫黄泉」と、まさに「那須の珍湯」と呼ぶにふさわしい温泉です。
そんな温泉を切り盛りするのは、現在ご主人おひとりとのこと。
穏やかでやさしい人柄が魅力の素敵な方ですが、近年は体力の低下もあり、建物の手入れも満足にできない状態なのだそうです。
そのため、このような奇跡的な空間をつくり出していますが、いつかはなくなってしまうのかな、と思うと寂しい気持ちになります。

ずっと残っていて欲しい、素敵な温泉でした
「ぬるめのお湯なのでじっくり入って温まってください」というご主人のやさしい言葉とともに、いつまでもこの姿のまま残ってほしいと心から思う温泉です。
「老松温泉 喜楽旅館」の施設情報
※老松温泉喜楽旅館は2019年12月に閉館しました。
施設名 | 老松温泉 喜楽旅館 |
---|---|
住所 | 栃木県那須郡那須町湯本181 |
電話番号 | 0287―76―2235 |
泉質 | 弱アルカリ性硫黄泉 |
源泉温度 | 77.1℃ |
湯づかい | 加水なし・加温あり・消毒なし 完全かけ流し |
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