温泉には、疲労回復などの効能効果があることをご存知の方は多いはず。しかし、効能効能を正しくは「適応症」と呼ぶことや、それとは反対の意味を持つ「禁忌症」について詳しく知っている人はそれほどいないのでは? 今回は、そういった方のために、温泉の適応症と禁忌症に関する内容を解説していきます!
目次
適応症と禁忌症とは?

適応症
「適応症」とは、温泉に入ったり温泉を飲んだりすること(温泉療養)によって、良化が期待できる症状のこと。一般的に温泉の“効能(効果)”と呼ばれているのが、この適応症なのです。
疲労回復や健康増進などがこれに該当し、適応症の存在が認められている温泉を「療養泉」と呼びます。
環境省が制定する「鉱泉分析法指針」で定められている療養泉の条件は、
1.源泉温度が25℃以上
または
2.総硫黄など含有成分に関する7つの特定の条件のうち1つ以上規定値に達している
となります。
例えば、総硫黄が温泉1kg中に2mg以上含まれていると「硫黄泉」というように、お湯に含まれる成分に応じておおまかに10種類の泉質名がつきます。適応症は泉質によって異なるのですが、詳しくは追ってご説明します。
禁忌症
適応症の対となるものとして「禁忌症」があります。禁忌症とは“患っている際に温泉に入ってはいけない病気・症状”のこと。現在かかっている病気と入浴する温泉の禁忌症が一致すると、症状が悪化する可能性があることを意味しています。なお、温泉を飲むことで生じる「飲用の禁忌症」もあります。
適応症と禁忌症の種類

一般的適応症と一般的禁忌症
硫黄泉や酸性泉などの泉質名がつく温泉「療養泉」のすべてに共通する適応症・禁忌症が存在します。それを「一般的適応症」と「一般的禁忌症」と呼びます。科学的根拠があるものも多いです。
一般的適応症(浴用)
■筋肉もしくは関節の慢性的な痛みやこわばり(関節リウマチ、変形性関節症、腰痛症、神経痛、五十肩、打撲、捻挫などの慢性期)
■運動麻痺における筋肉のこわばり
■冷え性・末梢循環障害
■胃腸機能の低下(胃がもたれる、腸にガスがたまるなど)
■軽症高血圧
■耐糖能異常(糖尿病)
■軽い高コレステロール血症
■軽い喘息・肺気腫
■痔の痛み
■自律神経不安定症やストレスによる諸症状(睡眠障害やうつ状態など)
■病後回復期・疲労回復・健康増進
※飲用の一般的適応症はありません
一般的禁忌症(浴用)
■急性疾患(特に熱のある場合)
■活動性の結核
■悪性腫瘍
■重い心臓病
■呼吸不全
■腎不全
■出血性疾患
■高度の貧血
■その他一般に病勢進行中の疾患
※飲用の一般的禁忌症はありません
泉質別
一般的なもの以外にも泉質ごとに適応症と禁忌症があります。
詳細は後ほど解説するのでチェックしてみてください!
適応症と禁忌症の基準となる「温泉法」とは?
温泉の定義を定める「温泉法」による温泉の定義は
1.温度(温泉源から採取されたときのもの)が25℃以上
または
2.リチウムイオン、水素イオンなど含有成分に関する19の特定の条件のうち1つ以上規定値に達している
です。
ただ、上記の条件を満たしていると「温泉」ではありますが、適応症のある温泉である「療養泉」とはいえません。
例えば、総硫黄が温泉1㎏中に1mg以上含有されていれば「温泉」ではあるものの、それだけでは泉質名はつきません。総硫黄の場合、2mg以上含有されていれば「療養泉」として認められて「硫黄泉」と呼ぶことができるのです。
適応症と禁忌症を泉質別に解説!成分が重要
ここでは、“泉質別”の適応症と禁忌症をご紹介します。
「単純温泉」の適応症と禁忌症
子どもや高齢者に優しい“家族の湯”。
浴用適応症 | 自律神経不安定症、不眠症、うつ状態 |
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飲用適応症 | なし | 浴用禁忌症 | なし | 飲用禁忌症 | なし |
「塩化物泉」の適応症と禁忌症
塩分による殺菌効果に優れており、湯冷めしにくいのが特徴。
浴用適応症 | きりきず、末梢循環障害、冷え性、うつ状態、皮膚乾燥症 |
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飲用適応症 | 萎縮性胃炎、便秘 | 浴用禁忌症 | なし | 飲用禁忌症 | なし |
「炭酸水素塩泉」の適応症と禁忌症
皮膚の表面をやわらかくすることから“美人の湯”などと呼ばれます。
浴用適応症 | きりきず、末梢循環障害、冷え性、皮膚乾燥症 |
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飲用適応症 | 胃十二指腸潰瘍、逆流性食道炎、糖尿病、痛風 | 浴用禁忌症 | なし | 飲用禁忌症 | なし |
「硫酸塩泉」の適応症と禁忌症
傷や火傷など、治癒効果に優れ、“傷の湯”として親しまれています。
浴用適応症 | きりきず、末梢循環障害、冷え性、うつ状態、皮膚乾燥症 |
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飲用適応症 | 胆嚢系機能障害、高コレステロール血症、便秘 | 浴用禁忌症 | なし | 飲用禁忌症 | なし |
「二酸化炭素泉」の適応症と禁忌症
心臓に負担をかけずに血行促進。“心臓の湯”と呼ばれることも。
浴用適応症 | きりきず、末梢循環障害、冷え性、自律神経不安定症 |
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飲用適応症 | 胃腸機能低下 | 浴用禁忌症 | なし | 飲用禁忌症 | なし |
「含鉄泉」の適応症と禁忌症
鉄分を含む温泉。飲用では鉄を吸収しやすくするため、貧血を癒す効果が高まります。
浴用適応症 | なし |
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飲用適応症 | 鉄欠乏貧血 | 浴用禁忌症 | なし | 飲用禁忌症 | なし |
「硫黄泉」の適応症と禁忌症
卵が腐ったような独特の匂いが特徴的。数少ない「浴用禁忌症」がある温泉のひとつです。
浴用適応症 | アトピー性皮膚炎、尋常性乾癬、慢性湿疹、表皮化膿症 |
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飲用適応症 | 糖尿病、高コレステロール血症 | 浴用禁忌症 | 皮膚または粘膜が過敏な人、高齢者 | 飲用禁忌症 | なし |
「酸性泉」の適応症と禁忌症
この酸性泉にも浴用禁忌症があります。肌への刺激は強めですが、抗菌力は十分。
浴用適応症 | アトピー性皮膚炎、尋常性乾癬、糖尿病、表皮化膿症 |
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飲用適応症 | なし | 浴用禁忌症 | 皮膚または粘膜が過敏な人、高齢者 | 飲用禁忌症 | なし |
「放射能泉」の適応症と禁忌症
気体の放射能性物質「ラドン」を含有。利用できる場所が少ない“万病の湯”です。
浴用適応症 | 高尿酸血症(通風)、関節リウマチ、強直性脊髄炎 |
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飲用適応症 | なし | 浴用禁忌症 | なし | 飲用禁忌症 | なし |
「含よう素泉」の適応症と禁忌症
うがい薬や傷薬でもお馴染みの「よう素」を含んだ温泉。殺菌作用に優れています。
浴用適応症 | なし |
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飲用適応症 | 高コレステロール血症 | 浴用禁忌症 | なし | 飲用禁忌症 | なし |
泉質についてより詳しく知りたい人はこの記事をチェック!
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含有成分別禁忌症について
2014年7月に「温泉法」と「鉱泉分析法指針」が改定。ここでは新設された成分の含有量による「含有成分別禁忌症」について解説します。各地にある温泉の成分については、温泉施設のホームページや脱衣所などで確認できる「温泉分析書」を見てみましょう。
含有成分別禁忌症(すべて飲用時)
ナトリウムイオンを含む温泉を1日(1200/A)x1000mlを超えて飲用する場合 | 塩分制限の必要な病態(腎不全、心不全、肝硬変、虚血性心疾患、高血圧など) |
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カリウムイオンを含む温泉を1日(900/A)x1000mlを超えて飲用する場合 | カリウム制限の必要な病態(腎不全、副腎皮質機能低下症) | マグネシウムイオンを含む温泉を1日(300/A)x1000mlを超えて飲用する場合 | 下痢、腎不全 | よう化物イオンを含む温泉を1日(0.1/A)x1000mlを超えて飲用する場合 | 甲状腺機能亢進症 | 上記のうちニつ以上に該当する場合 | 該当するすべての禁忌症 |
※「A」は、温泉1kg中に含まれる各成分の重量(mg)を指します。このほか、詳細な基準はこちらを参照
妊婦や赤ちゃんは特に要注意? 生理中も禁忌症は関係ない?
2014年7月1日の適応症・禁忌症の見直しにより、それまで浴用の一般禁忌症に挙げられていた「妊娠中(特に初期と末期)」が除外に。妊婦さんでも問題なく温泉を楽しめるようになりました。ただし、流産などのリスクを避けるためにも、浴室で滑らないようにしたり、長湯をし過ぎたりしないようにしましょう。
また女性の生理についての禁忌症も定められていないため、生理用品を用いるなどマナーを守って温泉に浸かれば問題ありません。
同様に、子どもに関する禁忌症もないので、温泉解禁の目安である「生後1か月以降」であれば、硫黄泉など刺激の強い温泉でなければ入浴することが可能です。
適応症と禁忌症を知って健康的かつ安心して温泉に!
改善したい症状があったら、泉質を調べて適応症を知ってから温泉地に訪れると、温泉のメリットをフル活用できます! そのときは禁忌症もしっかり確認して、温泉を上手に利用してください。
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