ひなびた温泉・銭湯の魅力とは?『もっとヘンな名湯』出版記念トークショー【12/21平井】

「お湯のある人生を楽しもうよ会議」。名前を聞いただけでワクワクする温泉マニア・銭湯マニア垂涎の夢の会議が、2019年12月21日(土)、東京都江戸川区の書店「平井の本棚」にて行われました。

ゲストは「ひなびた温泉研究所(ひな研)」ショチョー岩本薫さん。著書『ひなびた温泉パラダイス』は、温泉ファンの心をわしづかみにしました。聞き手は東京大学大学院で建築学を研究する内海(うちうみ)皓平さん。大の銭湯好きで、研究のかたわら銭湯を盛り上げるアートも手掛けています

そんな二人の、渋い共同浴場のように(あるいは下町の銭湯のように)アツいお話を聴いてきました!

湯を沸かすほどの熱い温泉愛・銭湯愛に注目です。

ひな研ショチョーの岩本さんと銭湯マニアの内海さんのプロフィール

トークショーに登壇したお二人のプロフィールを紹介します。

岩本 薫

温泉本作家・ひなびた温泉研究所ショチョー

クリエイティブディレクターのかたわら、全国のひなびた温泉を巡っている。ひなびた温泉研究所を運営し、情報共有・発信も手がける。
テレビ・ラジオ・雑誌にも多数出演。
著書『ヘンな名湯』『ひなびた温泉パラダイス』『戦国武将が愛した名湯・秘湯』。『もっとヘンな名湯』が2020年1月に出版予定。

今では「きれいな旅館」には魅力を感じなくなったと語る岩本さん。”ヘンな名湯” をもとめて全国を旅しています。

内海 皓平

歩行者天国研究家・東京大学大学院修士2年

大学院で歩行者天国の研究を行うかたわら、銭湯など古い建築の記録保存活動をしている。
東京ビエンナーレ2020で「銭湯山車」を製作予定。
『歩行者天国ハンドブック』『ホコテン探訪記』を自費出版。

長く使われている空間が好きで銭湯にハマった内海さん。地元だけでなく旅先でも銭湯をめぐっています。

第1部:銭湯の歴史と平井の銭湯

ホワイトボードで銭湯のつくりを説明する内海さん

第1部は、内海さんによる銭湯の魅力についてのお話。1年前から銭湯にハマったという内海さんは、全国50ヵ所もの銭湯を訪れたのだとか。

内海さん

東京ビエンナーレ2020」で「銭湯山車」を出展します。
脱衣所・洗い場・風呂など銭湯の要素を再現することで、街の中に埋まっている銭湯の魅力を引っ張り出したいです。

内海さん

家に風呂があるのにわざわざ銭湯に行くのは、お湯以外の何か魅力となるものがあるはずです。それを表現しようと思っています。

廃業した銭湯で製作が進められている「銭湯山車」。銭湯を飛び出して東京の街を練り歩くとき、どんな化学反応が起こるのか楽しみです。

精力的に活動しているのは銭湯の奥深さに魅せられたから。専門の建築学の視点でみるといっそう面白く感じられるそうです。東京の銭湯の歴史や、銭湯の地域差を解説してくれました。

内海さん

地域によって銭湯の造りに違いがあります。
関東では先に身体を洗ってからお風呂に入るため洗い場が手前、湯舟が奥にあります。一方関西では、先にお湯につかりたい人が多いため真ん中に湯舟があります。
風呂の入り方が地域によって違うから、銭湯の造りにも反映されているのです。

習慣と建築が対応しているのが銭湯の面白いところですね。

このトークショーが行われている江戸川区の平井は、内海さんの地元でもあります。平井には今も6軒の銭湯があります。伝統的な「宮造り」の立派な銭湯からマンションの1階に入っている銭湯まで、個性豊かな銭湯めぐりを楽しめます。

本当に入れるの…? 激渋銭湯にも挑戦

全国の銭湯をめぐった内海さんが最も面白いと感じたところは、愛媛県今治市の激渋な銭湯「敷島湯」。

内海さん撮影

のれんも看板もなく、地元の人に教えてもらうまではそこが銭湯だとすら気づかなかったといいます。

建物の前にロープが一本張られていたら休み、ロープがなければ営業中。常連さんでなければわからないでしょう。

内海さん

ペンキ絵とかはなくても家の風呂よりも気持ちよかったです。
こういうところに行ってこそ銭湯の良さが感じられると思います。

銭湯愛にあふれる内海さんのお話を聴いて、私も銭湯に行きたくなってきました。

「敷島湯」の詳細情報

施設名 「敷島湯」
住所 愛媛県今治市共栄町1-4-9
電話番号 0898-22-4587
営業時間 14時30分〜20時00分
定休日 日曜日
利用料金 大人400円・中人150円・小人60円
URL 1010ehime.com/cms/?p=154

第2部:あなたの知らないヘンな名湯の世界

第2部は岩本さんによる「ヘンな名湯」のお話。「ひなびた温泉」に魅せられて各地を巡るうちに、「ヘンな名湯」にもハマったそうです。

岩本さん

人間の手ではつくれない長い年月をかけてつくられたものにガーーーーンとやられるんですよ。
きれいなところよりも、温泉の成分が床や湯舟にこびりついているようなところがいいです。

ただ変わってるだけじゃなくて、お湯がいいのが「ヘンな名湯」ですね。

力強い温泉のなすがままに不思議な形になってしまった配管や、元の色がわからなくなってしまった桶。そうした「ひなびた温泉」ならではの光景は、良い温泉の証でもあります。

あまりにも静かな名湯!誰もいない公民館に温泉が

全国の「ヘンな名湯」を紹介する岩本さん。ときにスリリングで(?)エキサイティングな温泉巡りの思い出を、軽妙な語り口で次々に紹介していきます。

岩本さん

ここはね、とにかく静かで人の気配がまったくしない不思議な温泉でした。普段も温泉に自分一人しかいないということはよくあるのですが、ここは静けさが全然違う。シーーンと静まり返ったところに自分一人だけいるような感じでしたね。

「大塩温泉館」は「大塩公民館」という公民館の中にある温泉なんです。14時からやっていて、15時からボイラーを動かすというからピンときた。源泉温度がちょっとぬるめなんでしょうね。もちろん私は14時に行きました。ぬるめの気持ちいいお湯でしたから、15時までずーっとつかっていましたね。その間人っ子一人来なかったんですよ!

1時間ずっと貸切状態とはうらやましいです。温泉ファンにとって「独泉」はうれしいですが、あまりにも静かだとかえって不気味かもしれません。

そんな知る人ぞ知る「ヘンな名湯」。観光地化した温泉では決して味わえない魅力があると岩本さんは言います。

岩本さん

「ヘンな温泉」に入ると得した気分になれます。不思議な共犯者意識が芽生えるのです。

地元の人に愛されてきた「ヘンな名湯」。みんなに知ってほしいけれど知られてほしくない、そんなアンビバレントな愛情を抱くのにも共感できます。

岩本さんがお話しした「ヘンな名湯」たちは、2020年1月に出版される『もっとヘンな名湯』に収録されています。全国30あまりの「ヘンな名湯」が載っている充実の温泉本です。

「大塩温泉共同浴場」の詳細情報

施設名 「大塩温泉共同浴場」
住所 長野県上田市西内150
電話番号 0268-42-1048
営業時間 14時00分〜21時00分
定休日 毎月15日・30日
利用料金 大人200円・小人100円
URL http://www.city.ueda.nagano.jp/

第3部:パネルディスカッション

第3部はパネルディスカッション。岩本さんから内海さんに5つの質問をしながら、温泉や銭湯の魅力を語り合うという形式です。

銭湯は地元の雰囲気を感じる場だ!2人が語る銭湯の魅力

Q1. 銭湯を好きになったきっかけは?

内海さん

元々長い時間をかけて使い込まれてきたものが好きでした。
銭湯の楽しみ方がわかってからゆっくり過ごせるようになりましたね。

建築が(銭湯好きの)入口ですが、やっぱりお湯が好きです。

岩本さん

銭湯の楽しみ方って、やっぱり交互浴ですか?

内海さん

そうです、交互浴ですね。

岩本さん

皆さん交互浴って知ってますか? 知ってる人~?

あ、全員知ってた(笑)

熱いお湯と水風呂とを交互に楽しむ「温冷交互浴」。自律神経のバランスを整えてくれるといわれていますが、何よりめちゃめちゃ気持ちいいです!

まだ体験したことのない方はぜひお試しを!

岩本さん

私は銭湯に行くとアイデアが降ってくるんですよ。コピーライターの仕事をしていて、いろいろと調べたことをアイデアにつなげないといけない。

調べる、銭湯に行く、降ってくる(笑)。プレゼンの前なんかによく行きますね。

アルキメデスが浮力を発見したのもお風呂の中。ヘウレーカ!(我発見せり!)と叫びたくなるようなひらめきが得られるのもお風呂の効果です。

Q3. 今までで一番印象的な銭湯は?

内海さん

長野県松本市の「富士の湯」です。ここに行ったときは人通りの少ない時間帯でした。でも銭湯に入ったら女湯からすごく元気な話し声が聞こえてきたんですね。

銭湯が地元の人の情報交換の場になっていることを実感しました。自分が観光客として行ったときににぎわいが見えなくても、地元の人のつながりがあるんだなぁと思いました。

高い天井に声が反響して聞き取れなくても、地元の人たちが楽しそうにおしゃべりしているのはよくわかる。旅先で入る銭湯での心地よい「アウェイ感」は何物にも代えがたい魅力です。

「富士の湯(松本市)」の詳細情報

施設名 「富士の湯」
住所 長野県松本市本庄2-9-8
電話番号 0263-36-5395
営業時間 15時00分〜20時00分
定休日 火曜日・木曜日・日曜日
利用料金 大人400円・中人150円・小人70円
URL nagano1010.com/c09.html
岩本さん

私がもっとも印象に残っているのは、津田沼の「鷺沼温泉」です。まさに時が止まったような温泉銭湯でした。

映画『南極物語』の撮影でキムタクも入った銭湯なんですが、ここはロケ用に作り込む必要がなかった。昭和40年代のまま何も変わっていないからセットを作らなくてよかったのです。

タイル絵ではなく木の板に富士山が描いてあるのは今どきここしかないんじゃないかな。ご主人が高齢で跡継ぎもいないらしいので、今のうちにぜひ行っていただきたいです!

「鷺沼温泉」の詳細情報

施設名 「鷺沼温泉」
住所 千葉県習志野市鷺沼1-14-15 [地図]
電話番号 047-452-2523
営業時間 15時00分〜22時30分
定休日 不定休(毎週火曜)
利用料金 大人450円・中高生300円
小学生170円・幼児70円

東京の近くにこんな「ひなびた温泉」があるとは知りませんでした。古い設備を守るのはたいへんな苦労でしょう。

Q5. あなたにとってズバリ銭湯とは?

内海さん

当たり前にあるけど自分は知らない世界」を体験できるところだと思います。
自分にとっての旅先で日常生活を送っている人がいることに気づきます。東京の地元の銭湯でも、学生として生活していては出会えないような人が入っています。

こうした出会いを通して、頭をリセットしてくれます。

岩本さん

常に情報にさらされて判断していると疲れますよね。銭湯はそんな日常生活の「外の時間」なんです。

コミュニケーションの場で、その土地の雰囲気を感じられる場でもあります。

お二人が共通して語っていたのが、日常生活から少しだけ離れたところにある銭湯の魅力。

仕事や研究に没頭して疲れたときに、日常生活をしばし離れてお湯につかる。そんな暮らしこそまさに「お湯のある人生」だといえるでしょう。

「ひなびた温泉」を盛り上げたい!岩本さんの想い

岩本さん

新しいカルチャーとして、ひなびた温泉を盛り上げていきたいです。

吉田類さんが『酒場放浪記』で大衆酒場ブームを引き起こしたように、若い人たちの間で新しいカルチャーとしてひなびた温泉がブームになるんじゃないかと考えています。

岩本さんがそう話す背景には、年々姿を消していく「ひなびた温泉」の現状があります。

広告業という一見「ひなびた温泉」とは縁の遠い世界で働くからこそ感じる想いも込められています。

岩本さん

ひなびた温泉は下から盛り上げていくものなんじゃないかと思っています。

そこで私は「日本百ひな泉」と作ろうと考えました。一人の登山家が勝手に決めた日本百名山が今でも盛り上がっているように、一度「百ひな泉」を決めたらファンが盛り上げることで定着していくと考えています。

ムーブメントが独り歩きしてジャンルになって元気になる。私たちにできるのは、ムーブメントを起こして独り歩きさせることです。私が主宰する「ひなびた温泉研究所」には、ひなびた温泉を愛する人が集まっています。研究員(会員)の人たちが一緒になって『日本百ひな泉』を執筆し、4月頃に出版する計画を立てています。

参加者の方

ひなびた温泉が人気になることで、ひなびた温泉ならではの良さが失われてしまう恐れはありませんか?

 

岩本さん

人気と観光はちがいます。観光は広告を打って呼ぶ仮想の世界なんです。ひなびた温泉は観光するものではない。その魅力は「ひなびた温泉研究所」の研究員の方や読者の方々に伝わっていると考えています。

もしひなびた温泉に多くの人が来るようになって改装することになったら、それもそれで一つの価値だと思っています。きれいにするかどうかはその温泉を経営する人が決めることですし、そうやって良い温泉が受け継がれていくのも大切だと思います。

お客さんが減ってしまったり、後継者が見つからなかったり、燃料の高騰や災害などの影響を受けたりと、ひなびた温泉を取り巻く現状は厳しいです。

しかしひなびた温泉を愛する人たちがその良さを訴え続けることで、地元の人に愛されてきた名湯が今後も続いていくのではないでしょうか。

ひなびた温泉に行きたい!

お二人のお話を聴いて、今すぐひなびた温泉や銭湯に行きたくなりました!

全国各地にある「ひなびた温泉」。岩本さんの本が出版されてから、温泉好き・レトロ好きの間で着実にブームが起こっています。

 

 

 

 

ふらりと出かけた先の風呂で足を伸ばしてゆっくりし、日常生活をしばし離れてリフレッシュする「お湯のある人生」。

全国にたくさん素敵な温泉や銭湯があることに感謝しつつ、様々な出会いをこれからも楽しみたいと感じました。

 

全国のひなびた温泉レポート!