アフターコロナの温泉文化③「都市湯治」で非日常を味わう:”風呂デューサー” 毎川直也さん

新型コロナウイルス感染症(COVID-19)によって観光のあり方が大きく問い直されています。

全国の温泉の最前線で活躍する方にお話を伺い、アフターコロナの温泉文化について考えようと思います。

第3回目は、銭湯の番台に立ちながら「風呂デューサー」として温泉・銭湯文化の発信も手がける毎川直也さんにインタビューしました。

毎川さんは、コロナ前から日常に非日常を取り入れることで人生をより良くする「都市湯治」を提唱・実践しています。コロナによる人々の生活や心の変化を先取りする「都市湯治」についてお話をうかがいました。

※インタビューは2020年10月に行いました。

銭湯は生活に欠かせないインフラ

人で賑わう蒲田駅前の商店街(2018年撮影)

風呂デューサー・毎川直也さん

毎川さん提供

大学卒業後、宮城県東鳴子温泉の湯治宿「旅館大沼」で半年間の修行後、風呂デューサーとして活動を開始。大田区の銭湯「改正湯」で働くかたわら、テレビ・新聞・雑誌・Webメディアなどに多数出演・寄稿。1児の父。

オフィシャルサイト:http://furoducer.net/

橋本
街にはだいぶ人手が戻ってきました。銭湯はいかがですか?
毎川さん
土日を中心に少しずつ客足は戻ってきていますが、コロナの前よりは少ない状態です。ずっと来てくださっている常連さんに支えられている状況です。

蒲田では夜に飲み歩く人も戻ってきましたね(笑)。

橋本
緊急事態宣言下でも、銭湯は営業を続けていましたよね。銭湯は生活に不可欠なインフラだとあらためて感じました。
毎川さん
家にお風呂がない方もいらっしゃいます。大田区には「風呂なし物件」がまだまだ残っていますね。

緊急事態宣言が出ている間も、本当に常連さんに支えられました。

橋本
コロナ対策を徹底して営業を続けられたのですね。
毎川さん
番台にアクリルカーテンを設置し、脱衣かごや下駄箱の札などは定期的に消毒しています。

仕事は増えましたが、お客様に安心してもらうためにしっかりやっています。

橋本
常連さんというと、やはり近隣の方が多いんですか?
毎川さん
常連さんの範囲は限られると思います。

自転車で来られるお客様もいますが、多くの方が徒歩でいらっしゃいます。銭湯の商圏はかなり狭いと思います。何丁目とか、そういう単位ですね。

橋本
大田区は銭湯の軒数も日本一ですし、自然とそうなるのですね。

近くに住んでいる人でも、普段行く銭湯以外に行くことは少ないかもしれません。

最近マイクロツーリズムが注目されていて、銭湯もまさにその対象ではないかと思います。

毎川さん
銭湯の文化を残していくためにも、新しい視点で地元以外の方にも見ていただくのは必要だと思っています。

銭湯に慣れていない方にも入浴のマナーを伝えることで、地元の常連さんと共存できると考えています。コロナ対策と合わせて発信が大切ですね。

日常の中に「銭湯」という非日常を:マイクロツーリズムを先取りする「都市湯治」

毎川さん提供

橋本
マイクロツーリズムの考え方は、毎川さんが2014年から提唱・実践されている「都市湯治」と非常に似ていると思います。

あらためて「都市湯治」のコンセプトを教えていただけますか。

毎川さん
湯治場に行かなくても、非日常の体験をすれば湯治の一部分を体験できるのではないかというのが「都市湯治」のポイントです。
橋本
日常暮らしている地域に非日常を見出すという点が、マイクロツーリズムと共通していますよね。

思いついたきっかけは何ですか。

毎川さん
2014年に東鳴子温泉の湯治宿で半年間修行をして、湯治文化を体験しました。

工夫すれば湯治の一部分は都市部でも体験できる、と思ったのが一番大きいですね。

橋本
湯治場で過ごして、そう考えるようになったのですね。意外です。
毎川さん
湯治で大切なのは非日常です。

ふだんと違う自分になって、日常の自分を見つめて考えをめぐらせることで、日常に戻った後も人生がより良くなると考えています。

参加者との交流も都市湯治の醍醐味(毎川さん提供)

橋本
湯治の効果として転地効果(日常生活と環境を変えることで心身にもたらせられる適度な刺激)が言われていますよね。

湯治場に行くかどうかではなく、「非日常」を体験できるかどうかがポイントなのですね。

毎川さん
旅行の「非日常」って「嫌なことを忘れたい」みたいなところがあるじゃないですか。

私が考える「非日常」は逆で、自分を見つめ直すことで〔悩みや迷いを〕解決する旅行を提案しています。

旅館の人の何気ない一言だったり、自然の木々の葉っぱだったり、そんな何気ない体験からヒントをもらえるものです。アンテナを張った状態でいるのが大事ですね。

入浴中の “非日常” な身体感覚

開店前の銭湯の見学会を行ったことも(毎川さん提供)

橋本
なるほど。非日常を体験する上で、お風呂はどのように関わっているのですか。
毎川さん
お風呂に入った直後は血圧が上がって、その後徐々に下がっていきます。

ゆっくりお風呂に入っていると、ふだんの自分と異なる低血圧な状態で考え事をすることになり、非日常な感覚が得られるのです。

橋本
家のお風呂よりも、銭湯や温泉の大きなお風呂の方がゆっくりできますよね。
毎川さん
究極的には湯舟に入るだけで非日常になればいいんですけどね(笑)。

私はまだそんな境地にはなってないですし、家の外に出るのが大切だと思っています。

遠出しなくても非日常を体験できるが、家では得られない

毎川さん提供

橋本
緊急事態宣言下で「Stay Home」が呼びかけられて、料理をしたり映画を見たり、家でできることを色々やりました。

でもやっぱり、家からでないと気持ちが切り替わらない部分ってありますよね。つくづくそう感じました。

毎川さん
キャンプ気分を味わうために庭にテントを張る方もいるそうですね。家から出るのが非日常のポイントだと思います。
橋本
家にいてオンラインで参加しても得られないものが、「都市湯治」にはあるということですよね。
毎川さん
オンラインで「これが都市湯治です」って言ってしまえばできるかもしれないですが、自分のアイデアと一貫する道筋は考えられませんでした。
橋本
都市湯治のイベントでは、銭湯や温泉に入るだけではなく、参加者の方々と交流するのも重要な要素ですよね。

ふだん会わない人と会って話す中から得られる刺激も大きいと思います。

毎川さん
日常と違うことが重要なんです。

お寺でバーベキューをしたり、古民家を借りたりして、なるべく非日常が体験できるよう企画しています。

お寺でお参りと法話(毎川さん提供)

橋本
お寺や古民家のような非日常な場所って、意外と都市の中にもありますよね。

僕にとっては銭湯も非日常な空間かもしれません。

毎川さん
そうですね。多くの方にとって銭湯も非日常になると思います。
橋本
コロナが落ち着いたらぜひ再開してほしいです。

都市湯治にはまだ参加したことはありませんが、銭湯からのお寺でバーベキューは楽しかったですね(笑)。

毎川さん
都市湯治を消滅させるつもりはありません。何かしらの形で体験できるようにしたいですね。
橋本
今日はありがとうございました。

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