山里の秘湯、小さな鉱泉宿、河畔の湯小屋、心優しいご夫婦のおもてなし──温泉好きならきっと憧れるシチュエーションの詰め合わせみたいな温泉が、高知県須崎市にありました。その名も「山里温泉」。
秘湯といっても開業は2007年。あれ、新しい? けれどもそこには、ドラマがたっぷり詰まっています。
1年に100湯めぐる温泉好き大学生・橋本も一目ぼれした「山里温泉」の魅力をご紹介します。
お湯を沸かして待ってくれた!

グネグネ道を抜けた先の集落の、さらに奥に現れた一軒宿。ここが「山里温泉」です。

まさに「山里」らしい、のどかなところです。看板犬がお出迎えしてくれました。
クチコミで勧められた通り電話を入れてから訪れると、外で作業していた女将さんが「さっき電話くださった方?」と声をかけてくれました。凛とした素敵な方です。
「今お風呂を沸かしとるき、中に入ってお待ちください」と案内してくれました。

ロビーには素敵なストーブもあります。訪れたのは2月の下旬でしたが、朝晩は冷え込むようです。
待っている間に温泉の入り方を教えてもらいます。
身体の汚れを流してくれる泉質で源泉かけ流しのため、石鹸は腰の部分以外使わなくても大丈夫とのこと。待ってました! これぞ湯治場です!
「お風呂は外で、お手洗いはありません。先にお手洗いに行っておいてください」と言われ、用を足し終えるとお風呂が沸いたとのことで案内していただきました。

本館からスタッフの方と一緒に裏に出ると、一本の道が目の前に現れていました。その横を、お湯を沸かしている作業着姿のご主人が通りがかりました。誠実そうな雰囲気で、期待が高まります!
温泉マークが描かれた石に従って進みます。
「まっすぐ進んで階段を降りていただき、右手が男湯になっています。それではごゆっくりお過ごしください。」
と言われ、ここからは一人! なんだかワクワクします。

実際には100mも離れていないのですが、温泉はまだ見えません。

あ、見えました!

川べりに建てられた手作りの湯小屋。

木と岩を組み合わせて造られた湯小屋はぬくもりを感じます。

このあたりでとれる青石をふんだんに使ってつくられた岩風呂は、落ち着いた風合いで見ているだけで気持ちよくなってきます。
女将さんから教わった通り、かけ湯をして石鹸で腰のあたりだけ洗います。この石鹸も自然素材100%のものを取り寄せているのだとか。石鹸の泡立ちの良さと洗った後のなめらかさに、既にビビッときました。これは……!

いざ入浴!
笹濁りのまろやかなお湯が、全身をやさしく包み込みます。「アルカリ性単純硫黄冷鉱泉」の沸かし湯らしくなめらかな手触りですが、肌にまとわりつく感じはなく意外とキレがあってアッサリ系。
ほんのり硫黄の香りもしますがそこまで強くありません。硫黄が苦手な方にも安心しておすすめできます。
細かな湯の華がびっしり浮かぶお湯はとてもまろやかで、(これはいいお湯だ~~~!)と一人で大興奮してしまいました。

窓からは川が見えます。お湯が注がれる音と遠くで聞こえる鳥の声、そして風に木の葉がそよぐ音しか聞こえてきません。これぞ山里!
日頃追われているあれこれを忘れて、しばしひとりきりの時間を過ごします。

湯小屋のすぐ外から見た様子はこんな感じです。夏も川面をわたる風が爽やかで心地よいのだろうな~と想像がふくらみます。

シャワーブースも作られています。

もちろん出てくるのは温泉水100%。源泉が出てくるので、さっそく手にすくってみました。
沸かし湯よりもややとろみがあり、硫黄の香りも強め。口に含むとミネラルの甘みと硫黄の味がしました。
※この温泉は飲用できません。

ひとしきり源泉を楽しんで、お風呂にもどります。
やっぱり気持ちいい~
ご主人が僕のために沸かしてくれたと思うと感動もひとしお。

分析表も貼ってありました。どこを写真に撮って記事にしても構わないと女将さんに言っていただいたので、温泉の成分もご紹介します。
硫黄泉の浴用適応症は、アトピー性皮膚炎・尋常性乾癬・慢性湿疹・表皮化膿症です。アルカリ性の温泉は、石鹸のように弱酸性の皮脂を中和して洗い流してくれると言われています。
硫黄泉・アルカリ性単純泉についてもっと詳しく
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夢のセカンドライフは苦労の連続!山里温泉に込めた思いとは

「お風呂上がりにコーヒーをごちそうします」と、お風呂に入る前に女将さんが言ってくださいました。
大満足で本館に戻ると、「いいお湯だったでしょう?」と笑顔で迎えてくれました。
「はい、とてもいいお湯でした!」自然と会話が弾みます。
しばらくして出てきたコーヒーとお茶菓子の盛りつけがとても素敵でびっくりしました。聞けば女将さんは、生け花の先生もしていらっしゃるとのこと。館内を華やかにしてくれるお花はすべて女将さんが生けているそうです。
ここに来るまではずっと肌荒れに悩まされてきたけど、3年間くらい毎日この温泉に入っていたらすっかり治ったのよ。
とてもきれいなお肌で、かつて肌荒れに悩んでいたとは想像もつかないです! やはりこの温泉はすごいですね!
そうでしょう? この温泉を色々な人に入ってほしくて、旅館をはじめたの。
山里温泉は、秘湯の一軒宿としては珍しく、2007年の開業と新しいです。どのような経緯で開業したのか、そしてどんな苦労を経て人気の温泉宿になったのか、女将さんが話してくれました。
お仕事を早期退職し、ご両親の介護に献身したご主人。ご両親を看取った後は、兄弟とともにセカンドライフへ歩み始めました。
主人の兄弟4人で、廃業した旅館を買い取ったの。みんなリタイアしておったき、ここを別荘として兄弟みんなで楽しく過ごそうって。
しばらくは親戚だけで使っていたけれど、主人の兄弟も歳を取ってきたき、「うちに任せるから旅館をやらないか?」って。最初は、私にはそんな経験もないしできないって言っていたけれど、「あんたならできるって信じてる」って言われて、1年かけてリフォームしたの。
1年もかかったのですね! お風呂も手作りですよね。大変なご苦労だったと思います……
そう。大変だったわ。何しろ主人も私も、そういう経験がなかったから手探り状態だったわ。
そしてやっと2007年に開業しても、しばらくはお客さんが一人も来なかったの。宣伝も何もしとらんき、誰も知らなかったのね。それでも一人来、二人来、いつの間にかお客さんがいっぱい来てくれるようになったわ。
うちははじめから広告は出しとらんき、ぜんぶお客さんのクチコミね。みんながインターネットとかでも紹介してくれるおかげでたくさんの人が来てくれているわ。
評判が広がってついに「人生の楽園」(テレビ朝日系列)でも取り上げられることになった山里温泉。お二人のセカンドライフの物語は、たしかに「人生の楽園」そのもの!
しかし、テレビで取り上げられたことで毎日忙しくなってしまい、体調を崩してしまったそうです。それから定休日を設け、「自分にできる範囲で続けていこう」と決意しました。
何度かやめてしまおうかと思っても、そのたびに近所の人や一緒に働くスタッフに励まされて今も続けています。
インターネットでも予約を取りはじめたけれど、ある日クチコミを見ていたら根も葉もない嘘の中傷が書かれていて。ものすごくショックを受けて、もうやめてしまおうかと思ったの。
インターネットの難しいところですよね。悪質な嘘のクチコミを見るたびに、僕も心が痛みます。
でも一緒に働いている子が
「うちはこんな旅館じゃありません。それは私が一番よくわかっています。お客さんも知ってくれています。一緒に頑張りましょう!」
って言ってくれて。
「いいお湯だった」「ありがとう」って言ってくれるお客さんのおかげでここまで来られたんだなって思って、続けようって思ったの。
とても信じられませんが、女将さんは旅館をはじめるまで接客業をしたことがなかったそう。日々心を込めてお客さんを迎え続けてきたからこそ、あたたかいおもてなしができるのだと感じました。
女将さんのお話を聴きながら過ごす湯上がりのひと時は、印象的でかけがえのないものになりました。
「山里温泉旅館」の詳細情報
施設名 | 「山里温泉旅館」 |
---|---|
住所 | 高知県須崎市上分乙1336 |
電話番号 | 0889-46-0029 |
日帰り 営業時間 |
11時00分〜17時00分 ※事前の連絡をおすすめします |
定休日 | 水曜日(不定休もあり) |
利用料金 | 日帰り:700円 一泊二食:8,800円~ |
アクセス | 高知空港から車で約1時間15分(高知自動車道経由) 土佐新荘駅から車で約15分 |
お風呂が大きくないため、混み具合によっては待つこともあるそうです。日帰り入浴の際は事前に連絡するのがおすすめです!
2月に咲く「吾桑の雪割桜」も必見!

僕が訪れた2月中旬は、カンザクラの季節。須崎市内の「吾桑(あそう)の雪割桜」が満開でした。段々畑の中に咲き乱れるカンザクラ。
青空のもと、石積みのグレーと木々の緑に、雪割桜の桜の鮮やかなピンクが映えます。アクセントに菜の花の黄色や晩柑のオレンジが加わり、山は大賑わい。

平日にもかかわらず多くの人が桜を見に来ていました。

思わず「ここは天国か!?」と錯覚してしまうほどの満開の桜。
日常生活から解放してくれる山里の風景に癒やされ、晴れやかな気持ちで帰路につきました。
高知の秘湯「山里温泉」に行ってみよう!

女将さんとお話ししているうちに、通行止めの時間が近づいてきました。
「もっと色々お聴きしたかったのですが、」と言うと新社会人になる僕に「自分の信じることを続けるのよ。」とエールを送ってくれました。
温泉のもつ力を実感し、それを多くの人と共有したいと信念をもって旅館を切り盛りしてきた女将さんの言葉に、ジーンとしました。
今度は泊まりに来たい! と思いながら、山里の温泉宿を後にしました。
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