「大銭湯展」江戸東京たてもの園で開催中!学芸員さんに見どころを全部教えてもらいました

昭和の銭湯「子宝湯」など30棟もの歴史的建造物が並ぶ「江戸東京たてもの園」で、「大銭湯展」が開催されています。

豊富な歴史資料から懐かしい昭和の銭湯グッズ、そして現代の銭湯マンガまで、様々な角度から「ぬくもりと希望の空間」として銭湯を読み解きます。

親戚が銭湯を営んでいたという学芸員さんに見どころをたっぷりと語って頂きました。

プロローグ:大昔はサウナのような蒸し風呂だった

たてもの園の正面入口は、1940年に皇紀2600年記念式典で建てられた式殿を改修した「旧光華殿」。堂々とした外観で、緑青の屋根が秋晴れの空に映えます。

この先にある展示室で「大銭湯展」が行われています。

入口は江戸東京たてもの園のシンボルのひとつ「子宝湯」が夕暮れ空にたたずむ姿。

のれんをくぐって早速中へ。なんだか銭湯に来た気分になってきました。

学芸員さん

日本は水が豊富で温泉もたくさんあるので、古くから沐浴や温泉浴が行われてきました。6世紀に仏教伝来とともに温浴文化が伝わり、「湯屋」が建てられるようになりました。

湯屋といっても現在のお風呂とは違って、蒸し風呂でした。仏教は医学や薬学とも通じるところがあるので、穢れを祓うだけでなく健康のために温浴が行われていたようです。

第1章 江戸東京の入浴事情:江戸の銭湯ではボイラーも使われていた!

学芸員さん

幕末頃の女湯の様子を描いた絵です。右側の番台でお金を払って入り、脱衣所で着替えます。

斜めに青い筋が見えるのは、水切り用の溝です。竹が敷いてあって今で言うバスマットの役割を果たしていました。こうしてみると、銭湯の造りは現在とあまり変わりませんね

おしろいや鬢付け油など今で言う化粧品や、講談・寄席など娯楽などの広告が一面に貼られています。人が集まる銭湯は、地域経済にとっても重要な場所でした。

橋本

たくさんの女性が生き生きと描かれていますね。

学芸員さん

銭湯は社交の場でもあり、人付き合いの場でもありました

服を脱いでしまえば身分などはわかりません。まさに「裸の付き合い」がありました。

学芸員さん

この絵を詳しく見ていくと、江戸時代の銭湯の様子がよくわかります。

左側にお風呂があり、境目は壁はありますが扉がなくオープンになっています。(1番)。

その隣を見ると、ケンカをしている人もいますね(笑)(2番)。

奥の女性が手に取っているのは米ぬかです。身体を洗うためのもので、お米屋さんとタッグを組んで、米ぬかを提供してもらったりすることもあったようです(3番)。

東京の銭湯では丸い脱衣カゴが多いですが、江戸時代は四角いカゴが使われていたようです(4番)。

その隣の女性は子どもをあやしています(5番)。老女も描かれており、まさに老いも若きも銭湯に集まっていたことがわかります。

ところで、何か気づくことはありませんか?

橋本

えっ何ですか……?

学芸員さん

実は、誰ひとり髪を洗っていません。髪を結(ゆ)ったままですよね。

髪を整えるのは髪結さんの仕事で、髪を洗うことはあまりありませんでした。昭和45年ころまでは銭湯で髪を洗うときに「洗髪料」をとっていたくらい、長く続いています。

お風呂で髪を洗うのは数十年前までメジャーではなかったのです。

橋本

僕は2日もシャンプーしないと頭がムズムズしますが、当時の人たちはどうしていたのでしょう……。

学芸員さん

これは今で言う最新型営業カタログの控えです。

橋本

このグルグルってもしかして……

学芸員さん

そう、ボイラーです。江戸時代にはボイラーの技術が格段に進歩しました。鉄パイプに熱湯を通して水をあたためる基本的なつくりは今と同じです。

銭湯を営む方がこの図を見て、なんとなく使い方がわかるとおっしゃっていましたね。

草津温泉をヨーロッパに紹介したベルツは、銭湯文化も体験して高い技術力に感心しています。彼にとって日本のお風呂は少し熱すぎたようですが、温浴は健康に良い、本国でも真似したい、と書き残しています。

日本人のお風呂好きは当時から並々ならぬものだったのですね。

第2章 東京型銭湯:震災と戦災が今の銭湯を形作った

学芸員さん

関東大震災の復興のなかで、宮大工の技術を活かした「東京型銭湯」が登場します。広い空間に神社やお寺を造る技術が活用されました。

橋本

堂々として風格のある建物ですよね。「東京型銭湯」大好きです!

学芸員さん

園内に移築、復元された「子宝湯」をご覧いただけますが、こちらでも写真を展示しています。

橋本

屋根の装飾などを近くで見るのは難しいので、ありがたいですね。

学芸員さん

正面の屋根を「唐破風」といい、その下に「兎毛通し」という彫刻があります。松の木に止まる鷹と飛ぶ小鳥が題材なのですが、鷹と小鳥では、狩りの場面のようで縁起が悪いような気もしませんか?

調べてみると、「温め鳥(ぬくめどり)」という冬の季語があることがわかりました。

鷹が小鳥を捕まえてひと晩殺さず抱きかかえて暖を取り、翌日小鳥を逃がした方角へは狩りをしないという言い伝えのことです。

明日の活力を得るために暖まっていきなよ」「身分関係なくひとところで元気になろうよ」といったメッセージが込められているのではないでしょうか。

第3章 銭湯黄金時代:懐かしい品々に会話が弾む

学芸員さん

戦後の復興の中で、全国から東京に人々が集まってきました。当時の住宅は風呂なしが当たり前。銭湯が当たり前に使われていた時代です。

銭湯には多くの人が集まるので、銭湯に特化したサービスや産業も生まれました。

銭湯で牛乳を売り始めたのは、まだ一般家庭に電気冷蔵庫が普及する前の1955年頃です。牛乳屋さんが販路を拡大するために、銭湯に冷蔵庫を置いたといわれています。

橋本

お風呂上がりのキンキンに冷えた牛乳は最高ですよね。

学芸員さん

そして、マッサージ機は今でも見かけますよね。昭和30年代ころから電化製品が登場し、お風呂でより快適に過ごしてもらうために銭湯に置かれはじめました。

作りが単純なので修理しやすいそうですが、座面は人工皮革なので破れやすく、銭湯で今も現役なものも、展示品と同じようにガムテープであちこち補修してあるものが多いと思います(笑)。

学芸員さん

当時の女湯では、銭湯の従業員さんや他のお客さんにも手伝ってもらいながら子どもを着替えさせていました。

赤ちゃんがとにかく多かったのでベビーベッドがずらりと並んでいたそうですが、それでもいっぱいのときはカゴに座布団を入れてそこに寝かせることもあったようです。

橋本

今の銭湯では考えられないですね。

学芸員さんの原体験と大銭湯展への思い

学芸員さん

実はカゴに入っている子どもの写真は幼い頃の私なんです。

「銭湯のカゴには子どもを入れることがある」って言っても周りの職員さんは「見たことない」と言っていたので、じゃあ証拠を見せようと思って(笑)。

橋本

僕もさすがに見たことないですね。

学芸員さん

親戚が銭湯を営んでいたので、私にとって銭湯は当たり前の存在でした。毎日通っていたわけではありませんが、家に脱衣カゴがあったり、おつかいで出かけたついでにお風呂に入ったり、銭湯が身近な生活だったと思います。

橋本

それでこの大銭湯展を……?

学芸員さん

いえ、すでに決まっていた企画でした。でも内容について話し合っていく中で、自分が当たり前に知っていることも知られていないものが多いのだと気づきました。

「そっか、知らないのか」を掘り下げていこうと思って準備を進めてきました。

橋本

少し時代が変わるだけも「当たり前」が忘れ去られていくことってありますよね。銭湯に慣れ親しんだ世代の方にとってはきっと懐かしいと思います。

学芸員さん

色々な世代の方がいらっしゃっいます。銭湯に馴染んだおじいちゃんおばあちゃんと、銭湯に馴染みのない孫との会話が活発になっている様子も見かけました。

「一緒に行こう」「調べてみよう」と早速スマホを取り出す方もいますね。展示を楽しめていただいていると、手応えを感じます。

粉シャンプーとケロリン桶

学芸員さん

シャンプーが広まったきっかけの粉シャンプーです。2個包装で缶に入っていて、開けると蓋の裏が広告になっています。銭湯で販売しやすいように作られています。

「男だって使うべきよ」と書いてありますが、男性は1回で使い切れず残すこともありました。そこで登場したのがチューブ入りのペースト状シャンプーです。

プラスチック容器が普及するまで液体はダメでした。ガラスでは割れて危ないですからね。

学芸員さん

こちらはおなじみですよね? ケロリン桶です。

橋本

もちろん見たことも使ったこともあります! 白いのはとっても珍しいですよね。

学芸員さん

そうです。はじめの1ロットしか作られておらず、銭湯の物置にたまたま保管されていたものを展示しています。お借りした綾瀬の「玉の湯」では白いケロリンが使われています。

桶屋さんが製薬会社に広告掲載を持ちかけて作られたのですが、白いとキズや汚れが目立つため黄色くなりました。

木の桶は洗って乾かすのがたいへんな作業でした。桶が丈夫で洗いやすいプラスチックに変わって、銭湯の負担がかなり軽減されたはずです。

橋本

当時の最新技術を取り入れて、今の「銭湯の定番」ができていったのですね。

第4章 平成の銭湯:激減する銭湯の生き残り

学芸員さん

家庭にお風呂が普及するにつれて、銭湯が次第に姿を消していきました。

東京都だけでも平成の30年間で1,500軒ほどの銭湯がなくなってしまいました。特に1988年から2008年の間に、最盛期の約3分の2にあたる1,200軒近くがなくなっています。

橋本

そんなに多くの銭湯が店を畳んだのですね……。

学芸員さん

1日あたりの利用人数は2013年の119人を底に、少しずつ増えています。明るい希望です。

ピーク時には及びませんが、銭湯に足を運んでくださる方が確実にいる証拠だと思います。

橋本

レトロな雰囲気なども魅力となって、銭湯の人気は高まっていますよね。

学芸員さん

最近の銭湯は、プライバシーのために番台をやめてフロントにしたり、お客様にリラックスしてもらうために庭の池を露天風呂に作り変えたり、様々な工夫を行っています。

足立区の「堀田湯」の一日を写真で展示しています。お風呂掃除や燃料となる薪の準備など大変なお仕事も多いですが、ご夫婦と何人かのアルバイトの方で切り盛りしています。

橋本

お客さんがリラックスできて笑顔になるのが何よりのやりがいですね。

エピローグ 銭湯新時代:広まる銭湯の魅力

学芸員さん

近年では銭湯をモチーフにしたマンガが出版されたり、「風呂なし物件」を「銭湯つき物件」として見直す動きがあったり、CMにも登場したりと、銭湯が様々な形で注目されています。

また、廃業してしまう銭湯も少なくありませんが、内部の広い空間をカフェやギャラリーなどに活用するところも増えています。

最後にエピローグとして、新しい銭湯文化をご紹介しています。

橋本

おっ、「東京銭湯」のWebサイトは僕もよく使っています!

学芸員さん

「東京銭湯」では「軟水」や「あつ湯」などマニアックな検索ができます。

プライバシーが気になるお客様のために番台ではなく「フロント」付きの銭湯を検索できるようにしたものの、番台が好きなマニアの方もいるとわかって「番台」も追加したそうです。

ニーズに合わせてどんどん更新していけるのもインターネットの強みですよね。

橋本

外国人のお客様に向けても銭湯の魅力を発信しているところですよね。

学芸員さん

そうですね。東京五輪を機に銭湯文化を全国、全世界に発信しようという機運が高まっていました。

当園でも五輪に合わせて東京のくらしを知ってもらおうということで、生活文化を語る上で欠かせないものとして銭湯の展覧会が企画されました。

いよいよ子宝湯へ!富士山のペンキ絵も撮り放題

学芸員さん

では屋外展示の子宝湯も見てみましょう。子宝湯は1929年に建てられた銭湯で、内部は1950年代の様子を再現しています。

大銭湯展は、展示室だけでなく、子宝湯もあわせて見ていただきたいです。実際に見ることで高さや大きさを感じてほしいですね。

橋本

先ほど写真で解説していただいたので、彫刻などもしっかり注目したいです!

学芸員さん

こちらが番台です。ずいぶんと高いですよね。脱衣所はもちろん、浴室まで広く遠く見渡せます。

橋本

やっぱり実際に見ると銭湯の大きさを実感できますね。

学芸員さん

脱衣所の格天井(ごうてんじょう)は、「折り上げ」といって壁の角一周にカーブがあります。視線が上へと吸い込まれるような効果もあって、開放的な印象を与えます。

橋本

富士山のペンキ絵だ!やっぱり美しいですねぇ。

学芸員さん

遠近法を駆使したペンキ絵によって奥行きを感じられる空間となっています。

青い空、青い海、緑の山々。「ここではないどこか」にいるような錯覚さえ感じられる絵です。リラックスできて縁起の良い題材が描かれています。

橋本

ところで、女湯はどうなっているのですか?

学芸員さん

もちろん女湯も見学できます。富士山ではなく山々が描かれていますが、壁の向こうに富士山が見えます。

仕切りが高くなく、いざとなれば石鹸の貸し借りなどもできました。

橋本

目隠しはしつつ、広々と感じられる工夫でしょうか。

女湯も男湯も見られるのは展示ならではですね。そして写真が撮れるのもありがたいです。

学芸員さん

日中の自然光のもとで銭湯を見ることってあまりないと思います。ふだんお風呂に行くときとは違った姿もぜひ楽しんでください。

「大銭湯展」で東京の銭湯文化を体験しよう!

橋本

素晴らしい展示でした! 江戸時代からの連綿と続く銭湯文化を実感できて、こんど銭湯に行くのが楽しみになりました。

学芸員さん

ありがとうございます。その時代の「当たり前」も残していかないと消えていってしまうと感じています。

私にとっての「当たり前」だった少し昔の銭湯の様子を伝えるとともに、色々な形で残っていく銭湯の今とこれからを考えていただくのもいいのかなと思っています。

この展示を見て会話が盛り上がり、銭湯に行くきっかけになれば何よりですね。

橋本

解説していただきありがとうございました!本当に勉強になりました。

「ぬくもりと希望の空間 大銭湯展 2期」の詳細情報

会場 江戸東京たてもの園 [Map]
開催期間 2020年10月24日(土)~2021年1月31日(日)
※第1期は2020年9月27日(日)で終了しました
開園時間 9時30分〜16時30分(4~9月は17時30分まで)
※入園は閉園の30分前まで
料金 一般:400円/大学生:320円
65歳以上・高校生・都外中学生:200円
都内中学生・小学生以下:無料
※江戸東京たてもの園の入園料に含まれています
休園日 月曜日(祝日の場合は振替)、
年末年始(12月25日~1月1日)
住所 小金井市桜町3-7-1 小金井公園内 [Map] JR中央線武蔵小金井駅・西武新宿線花小金井駅からバスで約10分
電話番号 042-388-3300
お問い合わせ https://www.tatemonoen.jp/special/2020/201024.php

安全で楽しいお出かけを!江戸東京たてもの園のコロナ対策と新しい旅のエチケット

出典:観光庁HP

江戸東京たてもの園では、換気や消毒、従業員のマスク着用、混雑時の入場制限、さわって体験する展示中止などのコロナ対策を行っています。

来園する際はマスクの着用、入園時の手指の消毒、ソーシャルディスタンスなどを心がけ、発熱など体調不良のときは来園を控えましょう。

来園前にかならず公式ホームページをご覧ください。

また、観光庁では2020年9月29日に場面別の「新しい旅のエチケット」を発表しました。

マスク着用や、接触通知アプリCOCOAのインストール(AndroidiPhone)など、身近なコロナ対策がわかりやすく紹介されています。

皆さまの安全で楽しいお出かけを願っています!