バリアフリー温泉・親孝行温泉7湯紹介!山崎まゆみさん講演会「温泉を諦めない」【新刊情報も】

温泉エッセイストの山崎まゆみさんによる「温泉を諦めない!素敵なバリアフリー温泉をご紹介します」と題する講演会が2020年11月3日、川越市立中央図書館で行われました。

基本から選ぶポイント、おすすめのお宿まで、楽しいトークと豊富な写真で解説するあっという間の2時間でした。

講演会の様子とともに、山崎さんが紹介したバリアフリー温泉・親孝行温泉全7湯を紹介します。

 “温泉の申し子”、「バリアフリー温泉」と出会う


私は温泉の取材をはじめてから、母に「あなたは温泉の申し子なのよ」といわれました。母は「子宝の湯」ともいわれる新潟県の「栃尾又温泉」で湯治をして私を授かったのだそうです。

温泉の気持ちいい体験や温泉の良さを、気持ちよく伝える温泉エッセイストの仕事は、私に合っているのかもしれません。

2012年からは「バリアフリー温泉」を発信する仕事をしています。そのきっかけとなったのは私の妹でした。

妹には障がいがあり、晩年を療養施設で過ごしました。

お風呂の日はカレンダーに大きなマルをつけるほど、お風呂が大好きな妹を亡くし、温泉に連れていけなかったことを後悔しました。当時は「バリアフリー温泉」という言葉もなく、取り組みがあることも知りませんでした。

「バリアフリー温泉」という言葉をつくり、取材を重ねるうちに、「早く知っていれば」「同じ思いを他の方にはしてほしくない」という気持ちが募っていきました。今日の演題「温泉を諦めない」は、私のエッセイストとしての根底にある思いです。

最近では「親孝行温泉」も提案しています。父が手術のため入院することになり、お見舞いのたびに「退院したら一緒に温泉に行こうね」と温泉の写真を見せながらはげましていました。

無事に回復して久しぶりにふつうの服に着替えて温泉旅館に行き、父の表情がみるみる変わっていきました。

バリアフリーの貸切風呂も予約していましたが、大浴場にどうしても入りたいといって一人で入りに行きました。

心配になるほど時間が経ってから、父は脱衣所に杖を置いて、ツヤツヤの表情で出てきました。

温泉は誰もが笑顔になれる場所です。高齢でも安心して楽しめるとうれしいですよね。

そんな思いを込めて、高齢の両親を連れて行っても安心な「親孝行温泉」も紹介しています。

おしゃれなバリアフリーで楽しく過ごせるお宿

バリアフリーというと無機質な施設のイメージがあるかもしれませんが、温泉旅行の気分を味わいたいものです。

誰もが行きたいと思える「バリアフリー温泉」のお宿をご紹介します。

バリアフリー温泉その1:ホテルはつはな(箱根湯本温泉)

オーダーメイドの籐の車いすが、客室になじむ素敵なデザインです。押すほうも乗っている方も楽しいですよね。

籐の車いすに乗ったおばあちゃんを囲んで楽しそうに記念撮影している家族を見て、デザインも大事だとあらためて思いました。

バリアフリー温泉その2:リバーリトリート雅楽倶(富山・春日温泉)

次にご紹介するのは、富山空港から車で30分ほどのリゾートホテルです。

バリアフリールームの壁は全体に凹凸があり、どこでもつかめるようになっています。手すりを手すりと思わせないしつらえです。

足腰が弱った高齢者と三世代旅行

行く人の身体の状態に合わせて旅館を選ぶ必要があります。

まずは、支えがあれば温泉に入れる方におすすめの旅館を紹介します。

バリアフリー温泉その3:熱海後楽園ホテル

誰でも使えるシャワーキャリー(お風呂用の車いす)があり、海が見える大浴場に横付けできます。

お風呂の中にも手すりがあるため、少し足腰が弱っている方であれば介助なしでも入りやすいです。

バリアフリールームでは、車いすとベッドの高さが同じで移乗しやすくなっています。通路も広くてベッドに車いすが横付けできます。

子どもも楽しめる大型ホテルなので、三世代での温泉旅行にもぴったりです。

バリアフリー温泉その4:みちのく庵(宮城・鎌先温泉)

こちらは純和風のこじんまりとした旅館です。

客室では常連さんのリクエストを受けて作った籐製の手すりが利用できます。足腰が弱っても布団で寝たいという思いにこたえたものです。

いかにも手すりらしいと、高齢者は手すりを使う自分を想像してしまいます。バリアフリーをバリアフリーと見せない工夫も大切です。

女将さんは「お客様からのご希望はできないと思うのではなく、できることを探す。リクエストが実現できたら、お客様がとても喜んでくれる」と話しています。

身体が動かなくても楽しめるバリアフリーの温泉旅館

続いて、要介護度3くらいの方も楽しめる旅館を紹介します。

一人ひとりの身体の状態によって必要なことは変わってきますから、経験の豊富な方が旅館にいると安心です。

バリアフリー温泉その5:おんやど恵別邸(湯河原温泉)

23年にわたって1,000組以上の方を受けて入れてきた経験豊富なお宿です。

別邸は、さまざまなお客様からのリクエストに応えて改良を重ねた究極のバリアフリールームです。

寝室からも和室からも露天風呂に行けます。

また、「三助」という入浴介助サービスも利用できます。入浴介助は難しく、日常でしていても慣れないお風呂では大変です。プロに任せると安心です。

入浴介助が受けられる温泉地としては、湯河原の「三助」のほか、東伊豆の「トラベルヘルパー」、嬉野の「バリアフリーツアーセンター」が挙げられます。

こうした地域でなくても、各旅館で手配してくれる場合もあります。日本トラベルヘルパー協会は、全国を対象に旅行全般の介助を頼めます。

バリアフリー温泉その6:登府屋旅館(山形・小野川温泉)

旅館の方と一緒にバリアフリー温泉の取り組みを動画にもまとめています。

バリアフリー温泉のイメージをもっていただくために、登府屋旅館さんの動画を見ていただきましょう。

脱衣所からお風呂まで腰の位置を変えずに移動でき、移乗も楽にできます。

また、シャワーキャリーに乗っても全身洗えるシャワーもあります。

バリアフリー温泉その7:富士レークホテル(河口湖温泉)


車いすのままお風呂に入れるリフトなど、バリアフリーの設備が充実しています。

バリフアフフリールームは7タイプあり、身体の状態に合わせて選べます。

また、ベッドから河口湖の絶景を眺められ、体力を消耗せずに非日常の気分が味わえます。

ここの名物はビーフシチューです。刻みやペーストにも対応していて、家族みんなで美味しい食事も味わえます。

三世代旅行・親孝行温泉のチェックポイント

  1. お風呂の形状:床の上に乗っかっている湯舟の方が、身体の動きが少なく楽に入れます。
  2. お部屋のドア幅:80cm以上、できれば90cm以上あると車いすでも入れます。
  3. お部屋の広さ:車いすでも動き回れる通路があるか確かめましょう。
  4. 食事スタイル:部屋食でない場合は、食事処のバリアフリーもチェックしましょう。
  5. 水まわり:車いすが入れるよう流しの下にスペースのある洗面台や、広いトイレなどがポイントです。

私の著書ではこうしたポイントをふまえてお風呂やお部屋などのバリアフリー情報を図解しています。

また、杖や車いすで和室を傷つけないよう、杖先カバーや車輪カバーもあると気持ちよく過ごせますね。

共生社会を目指して:より多くの人が温泉を楽しむための心がけ

世界32ヶ国の温泉を訪れたことがあります。海外の温泉に入ることで、日本の温泉文化のすばらしさがわかる部分もあります。

その中でも印象に残っているのが、アメリカの「パゴサホットスプリング」です。大小30あまりの温泉プールが点在する大きなスパ施設で、段差もたくさんあります。

アメリカの法律によって、車いすでもお風呂に入れるリフトはついています。車いすのお客様もたくさんいらっしゃいますが、2日間滞在した中で1度も使われているのを見ませんでした。

足腰の不自由な方がいれば、誰かしらサッと近づいて支えるんですね。プロに任せる介助ではなく当たり前のこととして、お年寄りの入浴を他のお客さんが手伝っていました。

施設のスタッフや介助スタッフでなくても、困っている方に声をかけることはできます。こうしたちょっとしたことで、やさしい社会になっていけるのではないかと思います。

アメリカを中心に、障がい者を「チャレンジド」と呼ぶ動きがあります。障害は身体によるものではなく、社会によって引き起こされているものだと考え、誰もが住みやすい社会になるための挑戦を神から与えられたという意味です。

どんな身体の状態でも温泉を楽しみたい方が温泉を楽しめるよう、私たちにできることはたくさんあります。

最後にこんなお話をさせていただき、私の講演を終わりにしようと思います。ありがとうございました。

ハードだけでなくハートも大事!山崎まゆみさんにインタビュー

写真撮影時のみマスクを外しました。

今回特別にお時間を頂き、山崎まゆみさんにインタビューを行い、バリアフリー温泉のことをもっと詳しく伺いました。

橋本
たいへん勉強になるお話をありがとうございました。

山崎さんが「バリアフリー温泉」の活動をされる前は、高齢者や障がいのある方の温泉旅行はあまり多くなかったのでしょうか。

山崎さん
ほとんど見ませんでしたね。

湯治場なら高齢の方や病気を患った方がたくさん訪れていますが、足腰が不自由になるとどうしても諦めてしまう方が多いのではないでしょうか。

橋本
湯治宿のような施設では、なかなかハードの改修は難しいかもしれません。何かできることはありますか。
山崎さん
ハートの方が大事ですね。

受入に慣れていないと、事故の心配をして断ってしまう場合もありますが、何ができるかまずは声をかけてみるのが大切だと思います。

橋本
私達にも出来ることはたくさんあるということですね。私はお風呂に入るのが大変そうな方を見てもなかなか声をかけられずにいたのですが、今度から声をかけてみようと思います。

一方、入浴介助などプロでないと難しいこともありますよね。湯河原や嬉野のようなバリアフリーの取り組みが先進的な地域の共通点は何でしょうか。

山崎さん
リーダーシップと行政のサポートの2つだと思います。地域ぐるみで取り組んでいるところは多くありませんが、今日お話ししたようにバリアフリーの温泉旅館は全国にあります。
橋本
新型コロナウイルスによって温泉旅行のあり方も変わるかもしれません。誰もが温泉に入れる取り組みはいっそう大切になってきますよね。他に、新しい動きを教えていただけますか。
山崎さん
まずは安心安全が第一だと思います。今は海外の方にも発信するチャンスです。

そして、ワーケーションやサテライトオフィスなど、温泉地の活用をどこも必死に考えています。コロナの終息後に「あの時がターニングポイントだった」と振り返れるような大胆な変化の中にあると思います。

コロナ禍での旅館の動きを女将の視点で取材した本が2020年12月に発売されました。よかったらぜひ読んでみてください。

橋本
現場でないとわからないこともたくさんありますよね。今の試行錯誤の中から、アフターコロナの温泉文化が生まれてくるかもしれません。

最後に、温泉好きの皆さまにメッセージをお願いします。

山崎さん
温泉を諦めてはいけない。まずは温泉に入ってほしいですね。
橋本
より多くの方が温泉を楽しめるようになることを私も心から願っています。

今日は貴重なお話をありがとうございました!

主催は埼玉県立熊谷図書館!温泉の本もきっと見つかる

今回の講演会は、埼玉県立熊谷図書館が毎年文化の日に行っている文化講座として行われました。

あわせて2020年9月15日(火)から11月26日(木)まで「ばばんば♨ばんばんばん~図書館で楽しむ温泉・観光~」と題し、温泉関連の資料の展示会が行われました。

館長は「コロナ終息後にしたいこととして、旅行を挙げる方がたいへん多いというアンケート結果があります。今こそ誰でも楽しめる温泉を、と考えバリアフリー温泉についてお話しいただこうと企画しました。」とコメントしています。

コロナ対策として定員を減らしながらも会場が何度も笑いに包まれ、最後は大きな拍手で締めくくられました。